トタン屋根 雨のララバイ



きのう
夢であるひとに言われた

「死んでるフリするやつの相手は疲れるよ」


死んでるフリしてねえわ!



この梅雨の季節になると
よく思い出す
トタン屋根にひびく雨音

ある日小学校から帰ると
家の瓦が全部なくなっていた

おふくろは
「大家さんが新しい瓦をとりつけてくれるき」と 説明した
むきだしのトタン屋根はピカピカで
太陽がまぶしくて ロケットみたいだった

いつになっても
新しい瓦がくることはなかった

雨が降ると トタン屋根はまるで打楽器で さまざまな音色を届けてくれた
真っ暗闇できく 雨のサウンドは
原初の宇宙のように
鼓動がユニゾンした

おふくろのおつかいで
大家さんちに家賃の入った
封筒を持っていく
「あの、かわらください」は
いつまでも言えんかった
駄菓子をもらって
満足していた
おふくろは瓦のない家に不服そうだったが
別に気にならなかった
誰んちよりもピカピカだし(屋根は)
雨の日はよく寝れる

ある朝おふくろが
「この家を出て行かんといかんなった」 と言った
それはあまりに衝撃的だった
家賃のおつかい等々に出かけ
大家さんの存在も分かっていたのに
当時のおれは それでも
「これは自分の家なんだ」
と 揺るぎなく信じていた
その後 家族で近所の似たような貸家に引っ越し
数ヶ月後 通ってみたら
ほんとうにピッカピカのマンションができていて
おれんちがあったあたりは
まっさらな 駐車場になっていて
黒いアスファルトの上で
同じような子どもたちが
ボール遊びをしていた


東京の雨は しっとりしすぎて
集合住宅では雨のララバイが
きこえやしない
あのころの
むきだしのトタン屋根の貸家を
おふくろは今「まるでサ◯ィアンやったわ」と笑う

そのサティアンを脱したころ
小学生の自分の将来の夢は
「大工さんになる」
だった
スピーチ大会で「好きなひとに
好きな家を建ててやる」
と息巻いていた

今じゃ
壊してばっかりだ



こわすし つくる
7.17『朗魔2』



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